経営

「叱り方・ほめ方・育て方」 部下のやる気を引き出す育成ポイント

「叱り方・ほめ方・育て方」 部下のやる気を引き出す育成ポイント

企業の経営管理のなかで最も重要なひとつが人材育成です。人材育成手法としては、新入社員教育から始まって、社内研修、管理職研修など、さまざまな育成策が実施されています。

しかし、そうした教育・研修は、能力開発やスキルアップに重点が置かれており、社員のやる気を引き出すモチベーションの向上には直接つながりません。

社員のモチベーションを高め、仕事への意欲を向上させるためには、日常業務における管理職の部下の育成が不可欠です。最近は、部下を叱る管理職が少なくなったともいわれます。パワーハラスメントの心配からかもしれませんが、それは思い違いでしょう。

むしろ、叱る上司のもとで部下は成長するといわれます。「叱る」そして「ほめる」。その両者のバランスをうまくとることによって、人材が育つのです。

部下の上手な叱り方、ほめ方の具体的な効果やその方法などをみていきます。

モチベーションを高める環境の変化

企業の最大の経営資源は人であり、そのモチベーションを高めることが、収益の向上につながります。モチベーションを高める要素は、企業を取り巻く環境の変化で変わってきます。

高度経済成長時代には、「猛烈社員」「滅私奉公」などの言葉に見られるように、家庭を顧みず会社のために働く社員がお手本とされました。この時代の社員のモチベーションは、「会社のために働く」ことであり、「会社の業績向上」が社員の目標でもありました。

会社はそのために社員を終身雇用制度で手厚く保護し、社員だけでなく、家族の生活を守ることを経営の柱のひとつとしてきました。しかし、バブル経済の崩壊とともに、そうした経営は影をひそめ、代わって台頭したのが、成果主義、信賞必罰主義などの管理方式です。

人と組織の関係が、従来の「忠誠心」から「成果や経済的報酬」などのドライな関係に変貌しました。そこで採用されたモチベーション管理として、「職務給や成果主義」「管理職に対する年俸制度」などが導入されました。いわば、金銭によるモチベーション強化策です。

しかし、成果主義は多くの企業でうまく機能せず、成果をあげられませんでした。というのも、社会の成熟化にともなって、若者を中心に、社員の価値観が変わってきたからです。

昨今のようにモノがあふれる時代では、お金やモノの魅力が、相対的に低下しました。金銭よりも、精神的な充足を求める傾向が強くなったのです。

最近の新入社員の会社選択には、「仕事が面白い」「やりがいがある」「世の中に役立っていることを実感できる」「自分を成長させてくれる」など、金銭以外の要素のウエートが高まっています。

経済的要素以外に、社員のモチベーションを高める重要な要素としては、日常の業務で接している上司の存在があります。経営トップの考え方、管理手法も要素のひとつですが、直接、部下のモチベーションに影響を及ぼすのは、上司です。

部下のやる気を引き出す上司のコミュニケーション力

そこで、部下のモチベーション、やる気を引き出す上司のマネジメントについて考えて見ます。部下が自ら進んで仕事をするには、仕事の目的、自分の役割、会社のビジョン、将来像が明確に把握されていなければなりません。

会社のビジョンや会社の将来像などに関しては、さまざまな機会に経営トップから直接聞く機会があると思われます。しかし、そうした場は、職場での朝礼であったり、社員の歓送迎会などの場が多いため、社員の理解度、納得度はいまひとつです。

そのため、上司が機会を見つけて部下に、会社の方針、ビジョンなどを伝えることが重要です。それは一方的に行うのでなく、部下とのコミュニケーションを通じて、それとなく理解させるのがベストです。

コミュニケーションは、職場での話題、昼食、社員の歓送迎会など、さまざま場がありますが、決してお説教調にならないことです。日ごろのコミュニケーションの中で、いかに会社の考え方を部下に伝えるかが、上司のコミュニケーション力として重要になります。

「叱り方」「ほめ方」のコツ

部下とのコミュニケーションの中で、部下のモチベーションに大きく影響を及ぼすのは、上司の「叱り方」「ほめ方」です。この二つは、部下に対する教育と表裏の関係にあります。つまり、良い「叱り方」「ほめ方」は、部下に対する何よりの教育効果をもたらします。

一般に「叱る」と「怒る」を混同する場合がありますが、注意しなければならにのは、「叱る」には、本人に対する教育目的が込められていなければなりません。つまり、「叱る」というのは、どこが間違いで、どれが正しい方法かを本人に理解させ、同じ過ちを繰り返さないよう教えることに目的があります。

「怒る」は、怒りの言葉や感情を表すことであり、組織の管理職としてとるべき態度ではありません。

最近は、部下を叱る上司が少なくなったといわれます。「ほめる」ばかりで「叱れない」上司が多いのです。「叱る」と部下に逆切れされる、「パワーハラスメント」と受け止められるなどから、「叱る」ことを避けたり、躊躇する上司が増えているといえます。

そうした上司は、会社の管理職として不適でしょう。人材教育という管理職の責任を果たさず、事なかれ主義に終わっているからです。

部下の育成法としては「叱る」と同時にもちろん「ほめる」ことも大切です。しかし、部下の教育効果としては、「叱る」ほうが、「ほめる」より大きいのです。上司としては、まず部下を「叱る」、その後で「ほめる」ことが重要です。

教育効果の高い「叱り方」とは

「叱る」の目的に教育効果のあることはすでに述べましたが、教育効果を高める「叱り方」とはどのような方法でしょうか?

①まず信頼関係を築く

部下を叱る場合、まず上司と部下との信頼関係ができていなければなりません。新しい部署に着任した上司が、いきなり部下を「叱る」ことはNGです。部下はそれによって傷ついたり、仕事への意欲をなくしてしまいます。

さまざまな場でのコミュニケーションを通じて、信頼関係を築き、その過程で上司が部下を叱る場合の理由などをあらかじめ説明しておきます。

②毅然とした態度で公平に「叱る」

上司は、部下に対し、日ごろから公平な態度で接しなければなりません。「叱る」場合も、個人的な感情でなく、誰に対しても公平に、きちんと「叱る」ことが重要です。同時に、仕事のやり方、改善のために「叱っている」ことを理解させます。そうすれば、部下は上司を信頼して、指示を守るようになるでしょう。

③タイミングを見極める

叱る時はそのタイミングが重要です。事柄によって、すぐに叱らなければならないのか、ある程度時間を置いた方が良いのかを、部下の性格なども見極めながら判断する必要があります。

人は誰でも、頭ごなしに叱られたのでは、感情を傷つけられます。緊急の事柄でなければ、時と場所を改めて、ゆっくり諭すような叱り方がよいでしょう。その場合、叱る内容をあらかじめ整理し、部下に理解させるべき点を把握しておきます。そして、叱る時には、冷静に話しを切り出します。

④1対1で叱る

叱られる人は誰でも、恥ずかしい思いをしたり、傷ついたりします。そのため、多くの人の前で叱ることはNGです。個室などで、1対1で話すことが大切です。大声で叱ったり、他人と比較する叱り方は避けるべきです。時間も、長くて30分程度でしょう。

⑤過ちの理由、経緯をきちんと聞く

部下がなぜ、過ち、ミスをおかしたのかを、理由や経緯を含めきちんと聞きます。その上で、是正すべき対応策、正しい取組を説明します。部下が正しいと思ってとった行動でも、会社にとっては好ましくない場合もあります。なぜなのかを論理的に説明すべきでしょう。

「ほめる」ことの大切さ

「ほめる」ことは、「叱る」ことより、相手に受け入れられやすいため、上司の中には、「ほめる」ばかりの人がいます。しかし、そのやり方は部下の育成にはかえってマイナスです。

「ほめる」ことは、確かに、「やる気」を引き出し、自発的行動を促すきっかけになる場合もあります。しかし、少しばかりの努力に対してほめたり、やって当然のことまで、「よく出来た」などというと、部下はそれで自己満足して、その後の成長を期待できません。

難しい課題を与え、部下がそれにチャレンジして達成したときにこそ、「ほめる」ことが大切です。上司の「ほめる」ハードルが高いほど、部下の成長が期待できるのです。

「叱る」時に、部下の長所や過去の努力を評価し、その点を「ほめる」ことも、教育効果を高めます。「叱られる」だけでなく、「長所をきちんと評価してくれている」と部下が感ずれば、部下の「やる気」は増すはずです。

「叱る」「ほめる」のバランスと、その使い分けが部下の人材育成に重要となります。

まとめ

部下を「叱る」「ほめる」ことは、日常業務の中で、常に見られる事柄ですが、それをきちんと、冷静におこなうことは、人材育成の点できわめて重要な事柄です。それは何よりの現場教育といえるのです。管理職たる職場の上司は、部下を「叱る」「ほめる」際には、「部下を育てる」観点を忘れてはなりません。

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