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メンタリング制度の実践法 – 人材育成の課題と取り組み

メンタリング制度の実践法 – 人材育成の課題と取り組み

企業にとって人材育成は、将来の経営を左右する重要な課題です。特に中小企業の場合、人材確保自体が難しく、入社した新人の定着率も悪いという課題をかかえているだけに、人材育成は緊急の経営課題といってよいでしょう。

そうした中で近年注目されているのが、「メンタリング制度」です。会社内における従来の上下関係や、上司と従業員の関係でなく、先輩と後輩、ベテラン社員と若手社員といった精神的サポートの関係による人材育成策です。

メンタリング制度が今、なぜ注目されているのか、その内容と役割は何か、制度の具体的な取り組み方法などをご紹介していきます。

メンタリング制度の定義とは

メンタリング制度のメンターという言葉は、ギリシャ神話に由来する「よき理解者」「よき助言者」といった意味です。指揮命令系統における上官、上司ではなく、組織におけるサポート役としての役割を担う人といえます。

米国では、1980年代から、そうしたメンター機能を企業経営における人材育成策のひとつとして取り入れたことが、メンタリング制度の普及のきっかけとなりました。日本でも近年は、メンタリング制度を導入している企業が増えています。

メンタリング制度の明確な定義はありませんが、一般的には、企業のトップあるいは管理者による命令・指示ではなく、メンターと呼ばれる先輩格の助言者によるアドバイス、サポートによって、社員に対し自発的にやる気を起こさせる人材育成法といえます。

もちろん、企業や組織には、業務命令や指示・実行要請などの系統伝達の仕組みがあることは当然ですが、企業のそうした仕組みの補完的役割を果たすのがメンタリング制度であるといえます。

先輩・後輩、師弟の関係で信頼関係を強める

メンタリング制度では、メンターとメンティと呼ばれる社員が存在します。メンターは、助言者、支援者とも呼ばれます。それに対して、助言やサポートを受ける社員はメンティです。

メンターとメンティの関係は、先輩と後輩、あるいは、師弟の関係に置き換えることができます。メンターは対話による気付きと助言によって、メンティの自発的・自立的な実務の行動を促します。つまり、メンタリング行動とは、職場内で比較的経験のある社員が、経験の浅い社員に対して必要な情報を提供したり、作業の進め方をサポートする行動を指します。

そうした関係の積み重ねによって、メンターとメンティとの信頼関係が構築され、メンティは自分から進んで仕事に取り組むようになります。

企業経営にとって、強い組織というのは、チームワークの良い組織であり、経営トップを含めて社員が相互に信頼関係で結ばれている組織のことです。そうした信頼関係や、社員間の絆を強めるのに効果のあるマネジメント手法のひとつがメンタリング制度ということができます。

なぜ、今、メンタリング制度が重要視されるのか

メンタリング制度が、なぜ、今、企業経営で重視され、多くの企業で普及しているのでしょうか?その最大の理由は、従来の生産性重視の経営から、多様化するニーズに対応する経営への転換を、企業自体が迫られているからです。

生産性の向上は、これまで経営者にとっての共通の課題であり、生産・経営の効率化が何より重要視されました。経営効率化は、トップダウン方式による指揮・命令の迅速化であり、トップによって敷かれた路線を社員は一丸となってまい進しなければなりませんでした。

しかし、今や、製品、サービスに対する消費者のニーズは多様化し、それに対応できない企業は生き残ることが出来ません。多様なニーズに対応するためには、企業の人材が、多様な価値観、発想力で商品・サービスづくりに取り組まなければなりません。

社員の多様な価値観、発想力を高め、自らの創造力で仕事への意欲を高めるためには、トップダウンではなく、ボトムアップによる人材育成が有効です。メンタリング制度の役割はまさにボトムアップによる人材育成策ということができます。

メンタリング制度の具体的な運営方法

それでは、メンタリングによる人材育成を具体的にどのように実施すればよいのでしょうか。
ボトムアップの人材育成は、社員のやる気を引き出すことが大切です。そのためには、仕事によって社員が満足感を得られることが必要です。メンタリング制度では、メンターがメンティに対して満足感を与える対応をしなければなりません。

社員に満足感を与える具体的方法は3つあります。

①仕事の達成動機
②自己決定感
③評価と満足感

をそれぞれ明確化することです。

①仕事の達成動機

まず「仕事の達成動機」は、「目標を達成しよう」という意欲を持てるよう、メンターが仕事の目的を明確に示します。仕事全体の目標だけでなく、個人についてもブレークダウンした目標を設定します。

目標とともに、目標を達成した場合のイメージ、例えば、社内評価が高まる、賞与が増えるなどについても、具体的に示します。そして、達成した場合の評価や、人事考課などについてもイメージを示します。

②自己決定感

「自己決定感」は、仕事を上司や経営者から一方的に与えられたものでなく、メンティが自発的に仕事をしている感覚を持てるよう、職場の仕組みを考えます。例えば、グループで仕事を推進する場合、仕事のやり方、スケジュール、成果の評価法などについて、メンターはグループでディスカッションする場を設けます。そこで、メンティを含めた社員同士が意見交換しながら仕事を進めます。

ディスカッションの過程で、メンターは、社員の発想力、独創性を出来るだけ生かす方策を考えます。仕事そのものは会社の方針や上司から指示されたものであるとしても、ディスカッションを通じて、より良い改善策、方法が見つかれば、社員は仕事に対する決定感を実感できるでしょう。

ディスカッションなどを重ね、仕事の目標達成の見通しが得られた段階では、その後のプロセスはメンティにまかせることが大切です。メンターはあくまで助言者であり、サポーターですから、プロセスにおける過程では、細かい指示や口出しは避けなければなりません。

③評価と満足感

「評価と満足感」に関しては、仕事の目標が達成された場合、メンティが「この仕事はうまく出来た」と実感できる方策を考える必要があります。メンター自身がメンティとともに達成を喜び、メンティをほめることがまず大切です。その上で、上司や会社に対し、適切に評価してもらえるよう、働きかけます。場合によっては、報奨制度を作ったり、すでに制度がある場合は、その対象に推薦するなども必要です。

メンターの役割として重要なのは、経験の浅い社員の人材育成にあります。メンティとともに、ひとつの仕事が達成できれば、それでおしまいというわけではありません。メンティのそれまでの仕事ぶり、能力などを見極め、メンターは一歩難易度の高い仕事をメンティに与えなければなりません。そうした段階を経た仕事によって、メンティのキャリアアップが実現できるのです。

メンティは、難易度の高い仕事をこなしていくことで、自分への自信と仕事への喜びを高めていくことが出来ます。

経営方針の中の位置付けが重要

メンターとメンティとの関係によるメンタリングの具体的方法は以上の流れですが、メンタリング制度の運営、推進体制は、会社の経営方針の中できちんと位置づけられなければなりません。メンタリング制度が、人材育成策として効果があるからといって、漠然とした形で実施したり、職場の自主的な運営に任せていたのでは、成果をあげることは困難です。

会社としてメンタリング制度を導入するに当たって、まず具体的な人材育成の課題を整理します。新人の育成、職場適応なのか、職種転換や管理職昇進に伴う対応なのか、あるいは、技能・技術の伝承なのか、など、その目的を明確にします。その上でメンターの適任者を選びます。

単に先輩社員というだけでなく、ある程度の経験をもち、仕事上のさまざまな疑問や問題点にアドバイスできる人、そして何より、自分自身の仕事のマネジメントをきちんとでき、向上心のある人、職場では30歳前後の人をメンターとして選びます。

メンタリング制度推進のための主管組織を設けることも重要です。各職場のメンターと連絡をとり、それぞれの上司や経営幹部との連絡・調整役としての組織です。この組織では、メンタリング制度運営の成果を把握することが重要となります。

まとめ

メンタリング制度は、従来の縦型企業組織における効率重視の経営の見直しから生まれた人材育成策ということができます。社員の自主性・自発性を尊重するこの制度では、社員の多様な能力を最大限に生かすことができ、消費者、ユーザーの多様なニーズに適応できる、経営のあり方を示唆する手法の一つといえるかもしれません。

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