経営

職場環境改善のポイント – 雇用管理制度と「働きがい」「働きやすさ」の関係

職場環境改善のポイント - 雇用管理制度と「働きがい」「働きやすさ」の関係

近年、中小企業や小規模企業では、人材確保や従業員の定着率向上が経営課題としてクローズアップされています。企業にとって、人材は最大の経営資源であり、その定着率向上と、ひとり一人の能力開発が、企業業績の向上に不可欠となっています。

定着率の向上には、職場環境の改善、すなわち働きやすく、働きがいのある職場づくりが重要になります。そうした職場環境づくりには、企業として適切な雇用管理制度の導入がポイントとなります。

雇用管理には、仕事に対する評価・処遇制度の実施、従業員の意見を経営計画に反映する仕組み、人材育成のための教育・研修制度の実施、メンタルヘルスケア制度の導入などが考えられます。

これらの雇用管理が適切に行われている企業では、従業員の仕事のやりがい、働く意欲の向上につながり、最終的に企業の利益、業績向上の成果をもたらします。そこで、職場環境改善のポイントを雇用管理面から見ていきます。

中小企業の悩み

「せっかく新人を採用しても、2,3年経つと、会社を辞めるケースが多く、戦力として育たない」「従業員のやる気が今ひとつ。仕事を指示すれば、一応はこなすが、それ以上のことはやらない。自ら進んで課題を見つけたり、問題点を抽出して解決策を見出すような人材がほしい」-。中小企業の社長さんから、こんな嘆きを良く聞きます。

ここ、2、3年、景気は回復基調にありますが、新卒者はどうしても大企業や、名のある中堅企業に流れ、中小企業や小規模企業では、人手の確保がますます難しくなっています。転職者も多く、規模の小さい企業ほど、従業員の定着率が悪くなる傾向にあります。

適切な雇用管理制度の導入が決め手

従業員の定着率を高め、企業の戦力として育てるためにはどのような方策があるのでしょうか。

一般的には「働きやすい」「働きがいのある」職場づくりがポイントになりますが、その決め手は、適切な「雇用管理」を実施しているかどうかになります。大企業ではほとんどの企業で、雇用管理制度が導入されていますが、小規模企業など規模の小さい企業では、制度として導入されていないところも多いようです。

そこで、雇用管理制度とは、どういう内容で、どのような形で導入すればよいのでしょうか。

一般に雇用管理という場合、従業員を対象に、企業がそれぞれ実施している人事管理、労務管理などを指す場合が多いようです。しかし、それらは、企業が自主的に行っている管理であり、法律に基づいた制度として運用されているわけではありません。雇用管理制度という場合、具体的には、男女雇用機会均等法などの法律に基づいた制度を指します。

雇用管理制度の3本の柱

 雇用管理制度のポイントは、少なくとも3つの制度を柱として構成されていなければなりません。1番目は評価・処遇制度、2番目は教育・研修体系制度、3番目は健康づくり制度です。

①評価・処遇制度

この制度は、雇用管理制度の中の根幹ともいえる制度で、従業員の働きがいや、将来の生活設計を立てる場合の重要な要素となります。企業によって、評価・処遇の方法は異なりますが、基本は、ある職位や職務に就任するために必要な一連の業務経験とその順序、人事異動の経路を明確に示した制度です。

従業員、あるいは新たに入社する新人が、その会社でどのような仕事をどれくらい担当し、どの程度の習熟レベルに達すれば、どんなポストにつけるのかが明確になります。企業によっては「キャリアパス制度」と呼ぶところもあります。要は、キャリアアップの道筋・基準・条件等を明確化した制度です。

評価・処遇制度では、昇進・昇格基準、賃金体系制度も重要な項目です。現在の職務を何年程度やれば、係長、課長になれるという目安を得られます。年数と同時に、昇進の際に、試験や面接などを実施する場合は、その条件も明確に示しておく必要があります。

賃金体系には、基本給だけでなく、さまざま手当ての基準も示さなければなりません。通勤手当、住居手当、家族手当、役職手当、資格手当て、退職金手当てなどです。企業によっては、複数の手当てがまとめられているケースなどもありますが、企業の実情に応じて設定すればよいでしょう。

評価・処遇制度を作る場合、対象の従業員や制度適用の条件などをきちんと盛り込んでおく必要があります。対象となる従業員は、法律的には、通常の労働者と呼ばれ、事業主と期間の定めのない労働契約を結んでいることが重要です。3ヵ月間、1年間といった期間を定めた、いわゆるパート労働者、契約労働者などでなく、正規の従業員が対象です。これは、雇用管理制度全体についていえることです。

もう一点重要なことは、評価・処遇制度を導入する場合、賃金体系や諸手当制度における賃金総額が、制度導入以前に比べて低下しないことです。そして、制度が適用される条件例えば、勤続年数や人事評価、実施時期などが労働協約や就業規則にきちんと明示されていることが重要となります。

②教育・研修体系制度

大企業はもちろん、中小企業、小規模企業でも、この制度を導入するところが近年増えています。制度の形としては、新入社員教育、管理職研修、幹部職員研修、マーケティング技能研修、特殊技能習得研修など、企業の業種、業態により、さまざま制度があります。こうした教育訓練制度や研修制度は、人材育成策としても効果が大きく、雇用管理制度として重要な制度です。

教育・研修体系制度の導入に当たって注意すべき点があります。対象となる従業員は、
評価・処遇制度と同様、通常の労働者となります。教育・研修は、生産工程や就労の場における通常の業務とは切り離して実施する必要があります。つまり、現場研修、現場教育は教育・訓練体系制度の対象外ということです。

企業によっては、従業員を、専門学校や専門訓練所に通わせて訓練・講習を受けさせるケースがあります。その場合の入学金、教材費はもちろん、交通費等の諸経費は全額を事業主が負担する必要があります。また、教育訓練等の期間中の賃金は、通常の労働時の賃金から減額されずに支払われる必要があります。

③健康づくり制度

一般に企業で実施されている従業員の定期健康診断は、法律で義務付けられた制度ですが、それ以外に、雇用管理制度では、従業員の健康づくりのための制度の実施を求めています。生活習慣病予防検診やメンタルヘルスケア制度です。最近企業の間で増えているのがメンタルヘルスケア制度です。

現代病とも言われるうつ病は仕事におけるストレスや人間関係の不適応などから生ずるといわれます。いわゆる「心の病」です。心の病は、職場環境や上司、同僚との関係、業務上の負担の増大などが要因であることが多いようです。

心の病は早期発見が早期回復につながります。業務の遂行や職場管理などの面で、問題があると判断される場合は、会社の産業医や保健師などと連絡を取り、専門医の診断を速やかに受けるよう本人に指示することが重要です。心の病の徴候が出ていなくても、職場全体のメンタルヘルスケアの観点から、職場でのコミュニケーションや上司と本人との会話などが重要になる場合もあります。

雇用管理制度と「働きがい」「働きやすさ」の関係

以上のような雇用管理制度は、働く従業員の「働きがい」「働きやすさ」などの、職場環境改善の上で不可欠の制度といえます。雇用管理制度の導入が、「働きがい」「働きやすさ」にどのような影響をもたらしているのかについて、厚生労働省が実施した興味深い調査報告書があります。

厚労省が2013年に実施した「職場の働きやすさ・働きがいに関するアンケート調査(従業員調査)です。それによると、雇用管理制度の中で、「仕事の意義や重要性について会社としてきちんと説明が行われている企業」では、76%の従業員が「働きがい」意識を感じるとしています。それに対し、雇用管理制度を導入していない企業の従業員の場合は、「働きがい」意識は50%にとどまっています。

雇用管理制度の中で、「本人の希望が出来るだけ尊重される人事配置がなされている企業」では、73%の従業員が「働きがい意識」を感じているのに対し、管理制度を導入していない企業の場合は49%にとどまっています。

定着率や業績向上にも効果

調査ではこのほか、「働きがい」「働きやすさ」と従業員の「仕事への意欲」の関係を調べています。それによると「働きがいのある企業」群の従業員は、84%が「仕事への意欲が高い」と答えているのに対し、「働きがいのない企業」群では、意欲が高いとする従業員の割合は27%にとどまっています。また、「働きがい」「働きやすさ」のある企業群の場合、「今の会社でずっと働き続けたい」と回答した割合は44~50%にのぼっています。逆に「働きがい」「働きやすさ」のない企業群では、その割合は10~11%にとどまっています。つまり、「働きがい」「働きやすさ」のある企業群の場合、従業員の定着率も高いといえます。

調査では、「働きがい」「働きやすさ」と会社の業績との関係についても調べています。それによると、「働きがい」「働きやすさ」のある企業群の場合、従業員の44~48%が「会社の業績が高い」と答えています。逆に、「働きがい」「働きやすさ」のない企業群では、その割合は30%にとどまっています。

まとめ

従業員の「働きがい」「働きやすさ」は、企業の人材確保、定着率の向上のための不可欠の条件といえます。そうした職場づくりのためには、企業における雇用環境制度の導入が重要となります。企業が利益をあげ、業績を向上させるためにも、適切な雇用管理制度の導入が重要です。

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