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ターゲットマーケティングの実践方法―勝てる市場で勝負する

ターゲットマーケティングの実践方法―勝てる市場で勝負する

企業を取り巻く市場環境は近年、大きく変化しています。市場そのものが成熟化し、モノやサービスが市場にあふれる状況となっています。以前のように、作れば売れる時代、顧客が買ってくれる時代は過去のものです。

顧客の購買行動は多様化し、購買する商品、サービスは、自分にとって必要不可欠なもの、好みに合致した商品、ライフスタイルに合う商品・サービスなど、きわめて限定されたものになっています。

そうした時代には、従来のように、画一的な商品を市場に大量に売り込む方式は通用しにくくなっています。市場のニースが多様化・セグメント化(細分化)された時代の、新たな市場戦略として注目されているのが、ターゲットマーケティングという手法です。

文字通り購買層のニーズに合わせて市場を細分化し、細分化されたターゲットに対し、必要とされる商品・サービスを売り込む方法です。

そこで、ターゲットマーケティングの必要性やその意義、具体的な方法論をご紹介します。

弱者の戦略

中小企業あるいは小規模企業の経営者によく読まれている経営本に、「ランチェスター戦略」があります。「ランチェスターの法則」とも呼ばれますが、内容は「弱者の戦略」です。

もともと、イギリスの技術者・ランチェスターが書いた軍事戦闘理論ですが、日本では、経営戦略手法として、広く知られています。

ここでいう「弱者」とは、業界ナンバーワン以外の企業をそう呼んでいます。弱者が強者に勝つためには、接近戦やゲリラ戦、一点集中攻撃などの戦略をとらなければならないという考え方です。ランチェスター戦略が愛読されているのも、中小企業や小企業などの規模の小さい企業経営者にとって、示唆に富む内容、手法が多く含まれているからにほかなりません。

弱者の戦略では、例えば、地域を限定して、その地域でのNo.1(オンリーワン)になる、あるいは、商品・サービスの種類を絞り、経営資源を集中投入する、といった方法があげられます。

実はこの弱者の戦略の基本的な思想はターゲットマーケティングに共通するものです。

ターゲットマーケティングは、市場が成熟化し、顧客の購買行動が多様化した現在、顧客の層やニーズに応じて市場を細分化し、細分化されたターゲットに対し、最適な商品・サービスを提供する販売戦略です。そして、戦略の効果をあげるため、企業の保有するヒト、モノ、カネの経営資源を集中投入する方法です。

そこで、ターゲットマーケティングの必要性やその具体的内容を説明していきます。

ターゲットマーケティングの必要性

ターゲットマーケティングが今、なぜ必要とされるのでしょうか?大量生産、大量消費のいわゆる高度経済成長時代は、需要に対する絶対的な供給不足が続き、モノは作れば売れる時代が続きました。

ある程度、市場のニーズが満たされると、今度は、メーカーや売り手側の新たな需要創出努力によって、消費者のニーズがさらに高まる、いわゆるバブル経済が到来しました。そしてバブル経済が破綻した今日、作り手、売り手の供給側の市場掘り起こしでは、新たな需要創出を困難にしています。

市場の成熟化が進み、新たな商品・サービス投入の余地が狭められているからです。「モノが売れない、買わない」時代になっているのです。

市場環境が大きく変化した今日、規模の小さい企業が、大企業や競合企業に勝てる手法として、ターゲットマーケティングが登場したといえます。市場を細分化(マーケット・セグメンテーション)し、自社の強み、得意分野で勝負することで、活路を開く戦略です。

市場細分化の有利性

市場を細分化することが、なぜ中小企業に有利なのでしょうか?その理由としては、大きく3つあります。

①経営資源の有効利用

②顧客満足度の向上

③競争上の優位性の確保

①経営資源の有効利用

中小企業や小規模企業は、ヒト、モノ、カネの経営資源のあらゆる面で、大企業に比べて劣ります。そうした限られた経営資源を有効に活用し、マーケティングを行うには、自社の有利性を発揮できる市場を狭い分野に限定する必要があります。

②顧客満足度の向上

顧客のニーズが多様化している現在、多くの顧客のニーズに応える従来型のマス・マーケティングは、中小企業にとっては不利です。出来るだけ、範囲や購買層を絞ったマーケティング戦略の方が、顧客の満足をより的確に満たすことのできる戦略です。

③競争上の優位性の確保

競合他社と直接ぶつからない市場、他社が進出していない分野、他社の進出が難しい分野をいち早く見つけ、先手必勝でマーケティングを展開することです。それによって、その分野での優位性を確保することができます。


市場細分化の有利性は理解できたが、それでは具体的にどのように細分化するのでしょうか?

市場細分化の手法

市場の細分化は、ターゲットマーケティングの要です。市場細分化の手法としては、4つの手法が考えられます。

①地域・圏域を限定

②年齢層、性別に分ける

③ライフスタイルで分類する

④消費者の購買パターンを類型化する

それぞれの手法について具体的にみていきます。

①地域・圏域を限定

一般に市場という場合、国内市場、世界市場などを思い浮かべますが、規模の小さい企業が戦う市場は、むしろ、都道府県、市町村レベルの範囲です。地域によって、購買者の趣向、食品のニーズ、ファッションの流行などに微妙な違いがみられます。あるいは、その地方特有の習慣や食べ物の嗜好があります。

気候の違いによっても購買者のニーズが異なります。そうした購買者のニーズを見極め、それに対応した商品・サービスを提供する戦略こそが、その地域の市場でナンバーワンを勝ち取る方法となります。

②年齢層、性別に分ける

市場を年齢、性別に分けて販売戦略を実施する企業は大企業でも多くなっています。中小企業の場合は、性別による年齢層をさらに細かく分け、その企業ならではの商品・サービスの品揃えをすることが必要です。

消費者のニーズや欲求は、年齢や性別などと密接に関連しています。また、地域における人口統計基準も、年齢や性別をもとに区分されており、市場細分化のための分類法として利用しやすいという点もあります。

③ライフスタイルで分類する

消費者のライフスタイルは、それこそ千差万別であり、その人のパーソナリティ、育った環境、教育、価値観などでそれぞれ違います。ライフスタイルは消費者の購買行動に大きく影響します。

そこでライフスタイルをいくつかに類型化し、特定のライフスタイルの購買層にターゲットを絞って売り込みを図ります。例えば高級品志向の購買層、あるいは外食の多い購買層などです。

④消費者の購買パターンを類型化する

消費者の購買行動にはいくつかのパターンがあります。買い物の頻度、よく買う商品、買い物の場所など、地域の消費者の購買パターンを分析します。それらを類型化し、自社の商品・サービスとの関連性を調べます。場合によっては、その地域に多く見られる購買パターンに適した商品・サービスの投入も考えます。

自社の差別化戦略

ターゲットマーケティング戦略の要である市場の細分化が出来たら、今度は、それに対応する自社の差別化戦略が重要になります。競合他社のまねの出来ない、あるいは他社とは異なる商品・サービス戦略です。差別化戦略には、4つの類型があります。商品、サービス、人、イメージの差別化です。

商品の差別化は、商品の機能、品質、デザインです。これらすべてに他社との違いをPRするのでなく、どれかひとつに絞って、優位性をアピールすることです。

サービスの差別化は、注文のしやすさ、配達の速さ、メンテナンス等のアフターサービスのよさなどが決め手となります。

人の差別化とは、従業員の技能や知識、礼儀、迅速な対応、信頼感などが他社より優れていることです。そのためには、従業員教育、研修などが大事です。

イメージの差別化は、商品の使用感、サービスにおける快適さなどが、他社よりすぐれていることです。イメージを直接的にコントロールすることは難しいのですが、企業からの情報発信などで、消費者の心に良いイメージが残るようにすれば、差別化は成功といえます。

まとめ

ターゲットマーケティング戦略は、市場を細分化して、経営資源を集中投入すると同時に、自社の商品・サービスの差別化をはかり、細分化された市場でトップシェアを確保する、あるいは圧倒的優位に立つための戦略といえます。

ランチェスターの「弱者の戦略」は、決して“負け犬”の戦略ではありません。規模の小さな企業が大企業に勝つための不可欠の戦略といってよいでしょう。

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